転職サービス「doda」を運営するパーソルキャリアの調査によれば、入社直後の4月に「doda」へ登録する新社会人の数は、2025年に過去最多を更新した。10年前と比べると約6倍で、登録者全体の伸び(約3倍)を上回る。在職中から情報収集のために転職サービスへ登録する動きが、若手のあいだで定着しつつある。社員は入社直後から、自社と他社を比較できる状態に置かれている。
この変化を映すように、中小企業の経営者からは同じ種類の相談が続いている。評価制度を変えても若手が定着しない。中途で採用しても3年も経たないうちに辞めていく。年中採用活動を続けても、現場の人手不足は解消しない。
採用してもすぐ辞めるという現象は、採用担当者の力量や面接の質といった個別問題ではない。私が支援してきた事例を振り返ると、それは3つの構造的パターンに分類できる。本稿では、その3つを分解し、それぞれの本質と対処法を整理する。
構造1:業務負荷・支援不足型
第一の構造は、業務負荷が高く、それを支える仕組みが欠けている「業務負荷・支援不足型」である。典型例は、従業員200名の介護事業者だ。新卒の半数以上が3年以内に辞めていき、年中採用しても現場の人手不足は解消せず、ベテラン職員に負荷が集中する状態が続いていた。
退職者が口にする理由は、業務そのものに集中する。「業務がきつい」「残業が多い」「人手不足で休めない」「夜勤・シフトが負担」。業務量が多いなか、個人の生活時間(睡眠・回復・家族との時間)が確保できず、業務負荷を相談・調整できる管理職もいない。さらに業務外で相談したいと思える相手も組織内には限られ、孤立が深まる。「頑張れば報われる」という見通しが立たない組織では、ストレスは累積するだけで解消されず、離職理由となる。
この負荷とストレスの関係は、公的データでも裏づけられる。厚生労働省「労働安全衛生調査」(令和5年)では、強いストレスの内容の上位は「仕事の失敗・責任の発生等」(39.7%)、「仕事の量」(39.4%)、「対人関係」(29.6%)であり、仕事の量がストレスの主因の一つであることがわかる。
ただし、ここで止まると問題の本質を見誤る。重要なのは、なぜ業務量が多いのかという構造である。業務量が継続的に多い原因は、ひとつではないことが多い。
- 個人のスキルと業務難易度のミスマッチ
- 組織全体の業務過多の常態化
- 管理職による業務配分の偏り
- 現場発の改善提案が経営層に届かない構造
これらが解消されないまま採用で人を増やしても、新しく入った人にも同じ負荷がかかり、また辞めていく。根本にあるのは、経営方針と現場行動の乖離である。
採用を検討する時点で、経営者は「人手不足は人で解決する」と判断している。これも一つの経営判断ではある。しかし業務過多が長期化しているなら、それが一過性ではなく構造的な問題である可能性を疑ってほしい。経営方針と業務設計が連動していなければ、採用は何度繰り返しても穴埋めの域を出ない。
対策:
- 業務量を生み出す構造の棚卸し(業務再設計・経営方針との連動)
- 管理職の1on1面談を仕組み化し、業務負荷を相談できる場を作る
- メンタルケア・相談窓口の整備(内部・外部)
- 働く意義や仕事の手応えを、社内外に率直に伝える
逆に、業務量を生み出す構造の棚卸しと管理職の支援体制整備を進めた組織では、現場の負荷感が下がり、結果として早期離職も減る。採用に費用を投じる前に、社内の運営を整える。これが採用改善の土台になる。
構造2:賃金成長不透明型
第二の構造は、賃金が将来どう伸びるか見えない「賃金成長不透明型」である。典型例は、従業員40名の製造業(中途3年離職率50%以上)だ。中途採用しても定着せず、技能継承が進まない。ベテラン頼みの体制が続き、若手・中堅の育成サイクルが組めない状態が長く続いていた。
退職者が口にする理由は、賃金に向かう。「給料が上がらない」「同業他社の方が高い」「賞与の根拠が不明」。入社時の賃金は本人が応募して決めたものだから、ある程度は納得しているはずだ。問題はその後にある。
根本にあるのは、賃金が予測可能なものになっていないことだ。来年、3年後、5年後に自分の賃金とポジションがどう変わるのか。社員は、その答えを示してくれる組織を求めている。
何が起きるかわからない組織では、社員は自分の人生設計が立たない。住宅を買うか、結婚するか、子どもを持つか。これらの判断には、数年後の自分のイメージが必要だ。賃金が予測できない組織は、社員の人生設計そのものから外されていく。今どこにいて、どこへ向かうのかが分からないまま登り続けることは難しい。
対策:
- 評価制度と昇給の連動を可視化
- キャリアパス・等級制度の整備
- 中途採用時に3年後・5年後の賃金イメージを提示
では、なぜ賃金が予測できない組織になるのか。多くの場合、「業績が良い年は賞与を増やす」「頑張ったら昇給する」という口頭ベースの方針で運用されていることが原因だ。賃金上昇のロジックが経営方針として明文化されていない組織では、給与の話は曖昧なまま、不満を生む話題になり続ける。
起点となる理解はこうだ。待遇の問題は、目先の金額ではなく将来の見通しの問題である。そして、将来の見通しを社員に示す責任は、経営者にある。
製造業40名の事例も、賃金水準そのものが他社より極端に低かったわけではない。問題は、その変動のロジックが見えなかったことだ。毎年の昇給は経営者の感覚で決まり、賞与の額は業績に応じて変わる。「頑張れば上がる」とは言われるが、その「頑張り」が何を指すかは曖昧で、社員には自分の3年後・5年後を組み立てる材料がない。賃金水準ではなく賃金の予測可能性が、離職の引き金になっていた。
構造3:採用説明不一致型
第三の構造は、採用時の説明と現場の実態がずれる「採用説明不一致型」である。典型例は、従業員20名のIT事業者だ。中途採用者が「求人票と実際の仕事が違う」「面接時の説明と現場が違う」と感じて離脱していく。
退職者が口にする理由は、入社前後のギャップに集中する。「求人票と実際の仕事が違う」「面接時の説明と現場が違う」。表面的には説明不足に見えるが、原因はもう一段深い。採用担当と現場の認識ズレ(採用担当が現場を理解していない)、求人票に実態が書かれていない、面接で良い面しか伝えていない、入社後のオンボーディングがなくミスマッチが顕在化する、という構造である。
中途採用者は、良い面だけを聞いて入社する。実態と乖離していれば、早ければ入社直後に「イメージしていた職場と違う」と感じる。これは個人の問題ではなく、採用設計の問題である。求人票と現場のギャップは、建築でいう設計図と完成品の不一致に似ている。買い手が引き渡しで「話と違う」と感じるのと同じように、入社した人も最初の数日で「聞いていた話と違う」と感じる。離脱が起きるのは不思議ではない。
対策:
- 求人票に「業務の厳しさ・大変な部分」も率直に記載
- 現場管理職を面接プロセスに必ず入れる
- 入社前の職場見学・体験入社の導入
- オンボーディング3ヶ月プログラム
特に効果が大きいのは、現場管理職を面接に入れるアプローチだ。採用担当だけが面接していると、現場のリアリティが候補者に伝わらない。面接は「選ぶ場」であると同時に「等身大の自社を伝える場」でもある。この認識を持つだけで、求人票や面接での過度な美化は起きにくくなる。
反論への対応:「最近の若者だから仕方ない」は本当か
「採用しても辞めるのは、最近の若者だから仕方ない」。この発言を、私は経営者から何度も聞いてきた。しかし、データは違う事実を示している。
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」によれば、新規大卒就職者の3年以内離職率は、近年も3割前後で推移している。かつて「七五三(中卒7割・高卒5割・大卒3割)」と呼ばれてきた水準は、長年にわたって大きく変わっていない。つまり、最近の若者だからという説明は、データと整合しない。
問題は世代ではない。個人が会社に求めることと、会社が提供できること。その間のマッチングである。年代論で片付けると、構造的な問題から目をそらすことになる。
経営者・人事担当者への3つの原則
各構造に効く具体策は、前章までの「対策」に挙げたとおりだ。ここでは打ち手そのものではなく、それを誰が担うか、役割ごとの原則を3つに整理する。
1. 経営者は、採用の前に「事業方針とのリンク」を明確化する
経営者の役割は、採用に踏み切る前に、それを事業方針と結びつけることだ。事業方針に照らして、本当に人が必要なのか。必要であれば、どのような人材なのか。採用に費やすコストはもちろん、その後の人件費の増加が経営にどう影響するのか。これらが言葉になっていない採用は、たいていうまくいかない。
ここで陥りがちなのは、学歴や職歴、「なんだかすごそうな経歴」に惑わされることだ。有名企業出身、複数の資格、海外経験など、候補者の魅力を増やす要素はいくらでもある。だが、それらは「自社が本当に求める人材か」とは別の話だ。
採用で大切なのは、すごそうな人を採ることではなく、自社が本当に求める人材を見極めることである。経営者がその「求める人材像」を事業方針から言語化できているか。ここが第一の関門である。
2. 部門管理者は、必要な人材像と入社後のケアを設計する
部門管理者の役割は、現場目線で人材像と受け入れ体制を設計することだ。採用担当者だけで採用を回そうとすると、現場の認識とズレる。部門管理者が「どのような人間が必要か」を整理し、その人材を採用するための面接質問、入社後のケア体制、部門全体の受け入れ体制を設計する。
特に面接は要注意だ。日々の業務に追われるなかで面接の準備が形式的になり、応募者の評価が「面接官の印象」で決まる組織は多い。事前に面接質問と評価軸を整理しておく一手間が、ミスマッチを大きく減らす。採用は人事部だけの仕事ではなく、現場が主役の仕事である。
3. 人事担当者は、判断材料と改善案を提供する
人事担当者の役割は、採用の質を継続的に上げる仕組みをつくることだ。過去の採用KPI(採用人数・定着率・離職理由など)を見える化し、経営者と現場の判断材料として提供する。そのうえで改善案を示し、PDCAを回す。人事担当者は、採用を実行する人ではなく、採用の質を継続的に上げる仕組みを作る人である。
おわりに
採用してすぐ辞める会社には、共通する3つの構造がある。業務負荷・支援不足型、賃金成長不透明型、採用説明不一致型である。これらは個別の問題ではなく、組織全体の設計に起因する構造だ。
「採用してもすぐ辞めるから、また採用する」を繰り返す前に、自社がどのパターンに当てはまるかを見極める。構造が見えれば、対処は自ずと見えてくる。ときには、採用しないという選択も視野に入れたほうがよい。社内の運営整備が、結果として最も効果的な採用対策になることもある。
稲上経営コンサルティングでは、組織診断から原因の特定、制度設計・運用定着までを一貫してご支援しています。採用してもすぐ辞める、何から手をつければいいか分からない、というご相談からで構いません。初回のご相談(60分・オンライン)は無料です。
出典・参考
- パーソルキャリア「新社会人の転職サイト登録動向(2025年版)」(入社直後に「doda」へ登録した新社会人数は過去最多を更新。10年前比で新社会人は約6倍、登録者全体は約3倍)
- 厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」(仕事や職業生活での強いストレスの内容:「仕事の失敗・責任の発生等」39.7%、「仕事の量」39.4%、「対人関係」29.6%)
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(新規大卒就職者の就職後3年以内離職率は近年も3割前後で推移)
執筆者
稲上 巧(いながみ たくみ)|稲上経営コンサルティング 代表 中小企業の採用・定着・育成・評価を中心に、これまで100社を超える組織づくりを支援。英国の経営大学院(MBA)にてリーダーシップやワーク・エンゲイジメントを研究し、アカデミアの研究知見とビジネス現場の実感を往復させながら、感覚に頼らない「行動起点マネジメント」の体系化を進めている。
