テレワークにしてから、なんとなく社員との距離が開いた気がする。そう感じているうちに、離職がぽつぽつ増えてくる。一方で、在宅中心でも定着率の落ちない会社もある。この差は、テレワークの有無では説明がつかない。
在宅で離職が増えるかどうかを分けるのは、上司と部下のあいだの関係性、つまり信頼や敬意が保たれているかどうかだ。関係の経路が切れると、孤立感からエンゲイジメントが下がり、離職につながる。逆に、関係を保つ行動が設計されていれば、顔を合わせなくても人は残る。テレワークは、もともとあった関係性の強さ・弱さを増幅する装置にすぎない。
テレワークは関係性を切りやすい
オフィスでは、ふとした立ち話や表情、その場の空気で、関係が自然に補強されていた。在宅になると、それが消える。
- 雑談や偶発的な接点が、ほぼゼロになる
- 相談のハードルが上がり、「わざわざ連絡するほどでは」と抱え込む
- 上司からは様子が見えず、つい監視的な管理に傾く
ここで多くの会社が、「見えないからこそ管理を強める」という方向へ進む。出社時より細かく進捗を求め、在席を確認する。だが監視は信頼を削り、関係の経路をさらに切ってしまう。「信用されていない」というメッセージは、距離を越えて確実に伝わるからだ。
理論的にも、上司や同僚からの支援は、働く人の活力を支える「仕事の資源」として位置づけられている(仕事の要求度−資源モデル)。在宅でこの支援が細ると、エンゲイジメントは下がりやすくなる。私自身、経営大学院でリーダーの行動とワーク・エンゲイジメントの関係を研究してきたが、ここで効くのは制度ではなく上司の行動だという点は、研究と支援先での観察を通じて一貫して見えてきた。
増える会社と減る会社で、何が違うのか
同じテレワークでも、上司の行動しだいで結果は正反対になる。
テレワーク=接点の減少
→減る会社 :上司が行動で関係を保つ → 信頼・裁量が続く → エンゲイジメント維持 → 定着
→増える会社:接点減を放置、または監視で対応 → 関係が切れる → 孤立・低下 → 離職
私が支援した会社で、対照的な例があった。在宅中心に切り替えた従業員60名ほどの会社では、上司が日報と頻繁なオンライン確認を入れたところ、若手から順に離れていった。一方、同じ規模の別の会社は、週に一度の雑談つき1on1と、決定への参加を続け、在宅でも定着していた。分かれ目にあったのは、テレワークという制度ではなく、上司が接点の減少にどう向き合ったかだ。
顔を合わせないチームで関係を保つ行動
監視を強めるのではなく、次の行動で関係の経路をつなぎ直す。
| 関係を保つ行動 | 在宅で起きる問題 | 行動でどう解くか |
|---|---|---|
| 意義を伝える | 自分の仕事の意味が見えない | 意識して意味を共有する |
| 意思決定に参加させる | 通知だけで関与感がない | 決める前に意見を求める |
| 自律を支援する | 見えないと不安で監視に傾く | 任せ方を設計する |
| 期待と承認を言葉にする | 表情やうなずきが伝わらない | はっきり言葉にする |
大事なのは、これらが気合いではなく具体的な行動だということだ。行動だからこそ、できているかを測れるし、足りなければ増やせる。
「出社に戻すのが早い」への答え
結局、出社に戻すのが手っ取り早いのではないか。そう結論を急ぐ経営者は少なくない。
だが、出社に戻したからといって、関係が自動で回復するわけではない。出社していても関係が切れている会社はいくらでもあるし、在宅を望む優秀な人材を逃すリスクもある。問題はテレワークそのものではなく、関係を保つ行動が設計されていないことだ。出社は対症療法にはなっても、行動の設計を欠いたままなら、出社先で同じことが起きる。
おわりに——自社はどちらに傾いているか
在宅で関係が保たれているかは、経営者の感覚では分からない。「うちはちゃんとコミュニケーションが取れている」という思い込みこそ危うい。
自社がどちらに傾いているのか、在宅ではその手がかりが社内にほとんど残らない。週次の短い対話と、関係を測る簡単な仕組みを一度入れてみるだけでも、傾きが見えてくる。
稲上経営コンサルティングでは、在宅・ハイブリッド下の組織状態を診断し、関係を保つ行動の設計までご支援しています。テレワークにしてから様子が見えない、というご相談からで構いません。初回のご相談(60分・オンライン)は無料です。
出典・参考
- Demerouti, E., Bakker, A. B., Nachreiner, F., & Schaufeli, W. B. (2001). The Job Demands-Resources Model of Burnout. Journal of Applied Psychology, 86(3), 499–512.(上司・同僚の支援は「仕事の資源」として、働く人の活力やワーク・エンゲイジメントを支える)
執筆者
稲上経営コンサルティング|企業の採用・定着・育成・評価を中心に、これまで100社を超える組織づくりを支援。英国の経営大学院(MBA)で学んだ経営理論とビジネス現場の実感を往復させながら、経営者の感覚に頼らない、再現性のあるマネジメントづくりを支援している。
